お金があっても、人は本当に今と同じように働くのか

「人はお金があっても働く」とよく言われます。

たしかに、仕事が好きな人、社会との接点が欲しい人、使命感を持っている人はいます。十分な資産があっても、何かしら活動を続ける人は多いはずです。

ただし、ここで混同しやすい点があります。

働き続けたいことと、今の会社・今の勤務時間・今の責任をそのまま続けたいことは違います。

多くの人が望んでいるのは、完全な無活動ではなく、今より短く、軽く、自分で選べる働き方です。

十分な資産があれば、労働を減らしたい人はかなり多い

複数の調査をもとに、生活に十分な資産がある場合、現在より労働を減らしたい人はおよそ6〜8割、中心値では7割前後ではないかと整理しています。

ここでいう「労働を減らす」は、完全に働かないという意味だけではありません。

選択

おおよその見方

完全に仕事を辞めたい

25〜35%

現在より労働時間や責任を減らしたい

35〜45%

今の労働状態をほぼ維持したい

15〜25%

つまり、完全無職になりたい人は3割前後かもしれません。

しかし、現在の週5日・フルタイム・会社中心の働き方をそのまま維持したい人は、むしろ少数派である可能性があります。

宝くじに当たったら仕事を辞めるか、という質問の難しさ

このテーマでよく使われるのが、「宝くじに当たったら仕事を辞めるか」という質問です。

日本の調査例として、十分な当選金があれば現在の仕事を辞める可能性がある人がかなり多いことが整理されています。

一方で、別の調査では「今の仕事を続ける」と答える人も半数近くいます。

これは矛盾しているように見えますが、実は質問が違います。

質問の方向

読み取れること

今の仕事を辞めるか

現在の会社・職務・労働条件から離れたいか

働くこと自体をやめるか

有給労働や活動を完全にゼロにしたいか

仕事を続けるか

何らかの仕事・活動・社会参加を続けたいか

「仕事を続ける」と答えた人の中にも、週5日フルタイムを続けるつもりではない人が含まれます。

  • 週2〜3日に減らす
  • 責任の軽い仕事に移る
  • 好きな仕事だけする
  • 自営業や小商いを始める
  • ボランティアや創作活動に変える
  • 社会との接点を維持するために短時間だけ働く

だから、「お金があっても働く人は多い」という言葉だけでは不十分です。

正しくは、「お金があっても何かしら活動したい人は多い。しかし、今の労働量を維持したい人はかなり少ない」という見方です。

現時点でも、労働時間を減らしたい人は一定数いる

十分な資産があるという仮定を置かなくても、労働時間を減らしたい人は一定数います。

正規雇用者のうち今より労働時間を減らしたい人が3割台という調査や、労働者アンケートで6割近くが短縮を望むという調査が紹介されています。

調査によって数字に幅はあります。質問文、調査対象、団体の性格によって結果は変わります。

それでも、方向性はかなりはっきりしています。

収入減の不安がある現状ですら、労働時間を減らしたい人は少なくありません。収入の問題がなくなれば、短縮希望はさらに増えると考えるのが自然です。

つまり、労働時間短縮の希望は、一部の特殊な人だけのものではありません。

仕事に満足している人も、今の労働量を望んでいるとは限らない

仕事への満足度も、慎重に読む必要があります。

現在の仕事にやりがいを感じる人、仕事の内容に満足している人は一定数います。

しかし、それは今の労働量、責任、人間関係、評価制度、通勤、拘束時間まで肯定しているという意味ではありません。

肯定しているもの

必ずしも肯定していないもの

仕事内容

週5日勤務

やりがい

長時間労働

同僚との関係

評価制度

社会との接点

会社への強い依存

能力を使うこと

生活費のために断れない状態

仕事が嫌いではない人でも、労働時間は減らしたい。やりがいはあるが、責任は軽くしたい。社会との接点は欲しいが、会社に人生を預けたくない。

この層はかなり多いはずです。

完全無職より、週2〜4日労働の方が現実的である

脱労働を考えるとき、いきなり完全無職を目指すと必要資産が大きくなります。

一方で、生活費の一部だけを稼ぐなら、難易度はかなり下がります。

状態

必要なもの

現実性

完全無職

生活費のすべてを資産でまかなう

必要資産が大きい

週2〜4日労働

生活費の一部を労働で補う

現実的

短時間労働+資産

最低限の収入と心理的余裕

かなり現実的

小商い+資産

収入源と裁量

時間はかかるが相性がよい

多くの人が本当に求めているのは、完全に何もしない生活ではなく、週5日フルタイムから降りることではないでしょうか。

週3日働いて、残りの日を回復、家族、友人、趣味、学び、地域、旅、自分のメディアに使う。これだけでも人生の感覚はかなり変わります。

十分な資産の意味は、退職ではなく交渉力である

資産があることの価値は、退職できることだけではありません。

むしろ、交渉力を持てることが大きいです。

  • 嫌な職場を辞められる
  • 週5日を断れる
  • 単価の低い案件を断れる
  • 人間関係の悪い環境から離れられる
  • 一時的に休める
  • 転職や独立の準備期間を持てる

十分な資産があれば、「今の仕事を続けるしかない」という状態から抜けられます。

これは完全リタイアよりも、日常的な自由に効きます。

脱労働の出口は、労働ゼロではなく労働依存の低下

脱労働という言葉は、完全に働かないことのように聞こえるかもしれません。

しかし、現実的には少し違います。

重要なのは、労働をゼロにすることではなく、労働に人生を握られない状態に近づけることです。

  • 生活費をすべて給与に依存しない
  • 会社を辞めても数年は耐えられる
  • 週5日以外の働き方を選べる
  • 収入源を複数持つ
  • 資産からの安心を持つ
  • 仕事以外に人生の中心を持つ

この状態に近づくほど、働くことは強制から選択に変わります。

そして、選択になった労働は、かなり別物です。

結論:人は仕事をしたいのではなく、選べる状態で活動したい

十分な資産があれば、完全に仕事をやめたい人は一定数います。

ただし、それ以上に多いのは、現在より労働時間や責任を減らしたい人、今の会社を辞めて別の活動をしたい人です。

つまり、人間は必ずしも活動そのものを嫌っているわけではありません。嫌っているのは、生活費のために断れず、週5日・1日8時間・雇用主に管理される労働を続けることです。

脱労働で目指すべきなのは、労働ゼロよりも労働依存の低下です。十分な資産は、仕事を完全に辞めるためだけでなく、今の働き方を断り、短く、軽く、自分で選べる働き方へ移るための交渉力になります。