エヌエヌ生命の制度は、給与維持の週休3日ではない

エヌエヌ生命が2026年6月から始めた「選択的勤務日数制度」は、週3日または週4日の勤務を選べる制度です。

ただし、ここで最初に押さえるべきなのは、これは給与を維持したまま休みが増える制度ではない、という点です。公式発表では、報酬・賞与は選択した勤務日数に応じて調整されるとされています。

エヌエヌ生命の制度は、「正社員のまま、勤務日数と収入を下げられる制度」と見るのが正確です。

脱労働の観点では、この違いはかなり大きいです。給与維持型ではない一方で、正社員の身分や社会保険を維持しながら週5日フルタイムから降りられる可能性があります。

制度の基本情報

エヌエヌ生命の発表内容を、まず数字と条件で整理します。

項目

内容

制度名

選択的勤務日数制度

開始時期

2026年6月

実施期間

2026年6月から2026年12月までの予定

勤務日数

週3日または週4日

勤務曜日

固定

対象者

一定の勤続年数や業務要件等を満たし、所属部署および会社の承認を得た正社員

報酬・賞与

選択した勤務日数に応じて支給額を調整

社会保険

フルタイム勤務時と同様の適用

特に重要なのは、対象者が「全社員一律」ではないことです。一定の勤続年数、業務要件、所属部署と会社の承認が必要です。つまり、入社直後から誰でも週3日・週4日を選べる制度ではありません。

会社規模を見る

制度を見るときは、会社規模も重要です。少人数のスタートアップと、数百人規模の保険会社では制度運用の難しさが違います。

Gビズインフォ上の職場情報総合サイト値では、エヌエヌ生命保険株式会社の従業員数は967人です。内訳は男性587人、女性380人とされています。

会社情報

数値

従業員数

967人

男性

587人

女性

380人

資本金

324億円

保険料収入

2,817億円

総資産

2兆778億円

この規模の会社で、週3日・週4日勤務のパイロットを始めた点に意味があります。数十人規模の会社なら全社一斉に制度を変えやすいですが、約1,000人規模の保険会社では、営業、顧客対応、管理部門、承認フロー、引き継ぎの設計が必要になります。

週4勤務なら、収入はどれくらい下がるのか

公式発表では、報酬・賞与は勤務日数に応じて調整されるとされています。具体的な計算式までは公表されていません。

ただ、単純比例で考えるなら、週4日勤務は週5日勤務の80%、週3日勤務は60%が目安になります。

元の年収

週4勤務の単純比例

週3勤務の単純比例

週4で減る額

週3で減る額

400万円

約320万円

約240万円

約80万円

約160万円

500万円

約400万円

約300万円

約100万円

約200万円

700万円

約560万円

約420万円

約140万円

約280万円

900万円

約720万円

約540万円

約180万円

約360万円

これはあくまで単純比例の目安です。固定手当、役職手当、賞与評価、会社規程によって実際の金額は変わります。

ただし、制度の性格を理解するには十分です。週4勤務は「週1日分の時間を買う代わりに、年収の約20%を手放す」選択に近い。週3勤務は「週2日分の時間を買う代わりに、年収の約40%を手放す」選択に近い。

時間はどれくらい増えるのか

週5日から週4日になると、勤務日は1日減ります。週5日から週3日になると、勤務日は2日減ります。

年間で見ると、かなり大きな差です。ここでは祝日や有休をいったん無視して、単純に52週で計算します。

勤務形態

週の勤務日数

週の休日数

週5日との差

年間で増える非勤務日

通常勤務

5日

2日

-

-

週4勤務

4日

3日

週1日増

約52日

週3勤務

3日

4日

週2日増

約104日

週4勤務で増える約52日は、かなり大きいです。週3勤務なら約104日です。単純な休みではなく、育児、介護、学習、副業、通院、体力回復、セミリタイア的な生活設計に使える可能性があります。

一方で、勤務曜日は固定です。自由に毎週変えられる制度ではありません。会社や部署が業務を組み替えやすくするためには、固定曜日の方が運用しやすいと考えられます。

この制度の強さは、社会保険が残ること

エヌエヌ生命の制度で重要なのは、社会保険がフルタイム勤務時と同様に適用されるとされている点です。

これは、単に週4日アルバイトに移るのとは意味が違います。正社員として会社に残り、健康保険、厚生年金、雇用保険などの土台を維持しながら、勤務日数を減らせる可能性があるからです。

選択肢

収入

社会保険

安定性

時間の自由

週5正社員

高い

維持

高い

低い

エヌエヌ生命型の週4正社員

約80%目安

維持

比較的高い

上がる

エヌエヌ生命型の週3正社員

約60%目安

維持

比較的高い

かなり上がる

退職してアルバイト

下がりやすい

条件次第

下がりやすい

上がる

独立・業務委託

不安定

自分で設計

低くなりやすい

高い

脱労働の現実解としては、ここがかなり大切です。完全に会社を辞めるのではなく、会社との関係を薄くしながら、制度上の安定を残せる余地があるからです。

誰が使いやすい制度なのか

公式発表では、利用目的の細かい審査基準や対象職種は公表されていません。そのため、ここは制度設計からの推定になります。

使いやすそうなのは、業務を分割しやすく、担当者不在時の引き継ぎが可能な職種です。

利用しやすそうな職種

理由

本社企画部門

成果物や会議単位で仕事を区切りやすい

人事・経理・法務などの管理部門

業務プロセスを整理しやすい

IT・データ分析部門

タスク管理と非同期作業に向きやすい

プロジェクト型の専門職

担当範囲を明確にしやすい

逆に、利用のハードルが高そうなのは、顧客対応が連続する職種、代理店営業、日次処理が多いオペレーション、少人数部署の主要担当者、管理職などです。

ただし、これは会社が職種別可否を公表したものではありません。一定の業務要件と承認が必要という制度設計からの見方です。

パイロット運用である点は重要

この制度は、2026年6月から2026年12月までの予定で試行されるパイロット運用です。

つまり、現時点では恒久制度として全社に定着したとまでは言えません。会社は運用状況を踏まえながら、持続可能で生産性の高い働き方を検討していく段階です。

確認すべき点

なぜ重要か

2026年12月以降に継続されるか

一時的な試行か、正式制度になるかが分かる

実際の利用人数

制度が使われているかが分かる

対象職種の広がり

本社だけか、営業・顧客対応部門にも広がるかが分かる

生産性や顧客対応への影響

会社側が継続しやすいかが分かる

報酬・賞与の具体的な調整方法

社員にとって実際の損益が分かる

特に、利用人数は重要です。制度があるだけなのか、実際に使われるのかで意味が変わります。ただし、現時点で参加人数は公表されていません。

この制度は、週4勤務の普及にとって現実的な形である

給与を下げずに週休3日へ移る制度は、働く側にとって理想的です。しかし、全ての会社がすぐに導入できるわけではありません。

エヌエヌ生命の制度は、その中間にあります。給与は勤務日数に応じて下がる。しかし、正社員の身分と社会保険を残しながら、週3日・週4日を選べる可能性がある。

この形は、会社側にも導入しやすいです。人件費を完全に維持したまま労働時間を減らす制度より、勤務日数と報酬を連動させる方が制度設計しやすいからです。

働く側にとっても、退職よりリスクが低い。副業、学習、育児、介護、体力回復、セミリタイア的な働き方の入口になります。

脱労働の観点で見る価値

脱労働の観点では、エヌエヌ生命の制度はかなり示唆があります。

完全に働かない状態をいきなり目指すと、必要資産も心理的ハードルも大きくなります。しかし、週5日から週4日、さらに週3日に落とせる制度があるなら、労働依存を段階的に下げられます。

段階

働き方

意味

第1段階

週5正社員

収入と安定を優先

第2段階

週4正社員

収入を約20%落として、年間約52日の自由を得る

第3段階

週3正社員

収入を約40%落として、年間約104日の自由を得る

第4段階

低負荷労働・副業・資産収入との組み合わせ

会社依存をさらに下げる

もちろん、これは誰でも使える制度ではありません。会社の承認、職種、部署、収入減への耐性が必要です。

それでも、「正社員は週5日フルタイムで働くもの」という前提を崩す具体例としてはかなり重要です。

結論:エヌエヌ生命の制度は、正社員のまま労働量を下げる実験である

エヌエヌ生命の「選択的勤務日数制度」は、2026年6月から12月までのパイロット運用として始まった制度です。

週3日または週4日勤務を選べる一方で、報酬・賞与は勤務日数に応じて調整されます。単純比例なら、週4勤務は年収の約80%、週3勤務は約60%が目安です。

その代わり、社会保険はフルタイム勤務時と同様に適用されるとされています。ここが大きいです。退職やアルバイト化ではなく、正社員の土台を残したまま、週5日フルタイムから降りる選択肢になり得ます。

エヌエヌ生命の事例は、給与維持の夢の制度ではありません。しかし、約1,000人規模の企業で、正社員が週3日・週4日勤務を選べる余地を試している点に価値があります。脱労働の現実解としては、完全に辞めるより先に、正社員のまま勤務日数を減らす道が広がるかどうかを見るべきです。