週4勤務は、ただ休みを増やすだけでは定着しにくい

日本でも週4勤務や週休3日制を導入する企業は出てきています。

ただし、多くの場合、制度の中身はかなり違います。給与を維持したまま労働時間を減らすものもあれば、1日の勤務時間を長くする圧縮型もあります。勤務日数を減らす代わりに、給与も減る制度もあります。

そのため、「週4勤務」と聞いただけでは、労働者にとって本当に楽になる制度なのか、会社にとって採用上の差別化になる制度なのかは分かりません。

この点で、ロート製薬が発表した週3・4日勤務制「ビヨンド勤務」は、かなり見方がしやすい制度です。

ビヨンド勤務は、週4勤務を“休む制度”ではなく、“会社の外で経験を得る制度”として設計している点が面白いです。

ロート製薬の「ビヨンド勤務」とは何か

ロート製薬は2025年10月20日、社員発の新しい働き方制度として、週3・4日勤務制「ビヨンド勤務」を導入すると発表しました。

公式発表によると、2025年10月からエントリーを開始し、2026年4月から運用を開始する制度です。

制度の概要は次の通りです。

項目

内容

勤務日数

週3日または週4日勤務

運用方法

固定制・上長承認制

業務量

勤務日数に応じて3/5または4/5に設定

給与

勤務日数に応じて3/5または4/5で算出

福利厚生・評価

週5日勤務の社員と同等

活用条件

複業、学び直し、社会活動、資格取得など

ここで重要なのは、給与維持型ではないことです。

週4勤務なら給与も4/5、週3勤務なら給与も3/5になります。つまり、単純に「同じ給与で休みが増える」制度ではありません。

一方で、業務量も勤務日数に応じて調整され、福利厚生や評価制度は週5日勤務の社員と同等とされています。ここが制度としての肝です。

これは“週休3日”というより“越境勤務”に近い

ロート製薬自身も、この制度を単なる勤務日数の短縮としてではなく、自己成長や会社・社会への還元に充てる制度として位置づけています。

つまり、ビヨンド勤務は「休みたい人向けの制度」というより、会社の外で別の経験を得たい人向けの制度です。

  • 複業をする
  • 資格取得に時間を使う
  • 学び直しをする
  • 社会活動に参加する
  • 地域や別組織で経験を得る
  • 本業とは違う視点を持ち帰る

この設計は、日本企業の週4勤務としてかなり現実的です。

単に「休みを増やします」と言うより、「外で得た経験を会社にも還元してください」と言った方が、企業側も制度を説明しやすい。労働者側も、ただ休むのではなく、自分のキャリアや生活を広げる制度として使いやすい。

背景には、複業を受け入れる土壌がある

ビヨンド勤務がいきなり出てきた制度ではない点も重要です。

ロート製薬は、2016年から「社外チャレンジワーク」という複業制度を導入しています。2026年4月の公式レポートでは、この制度を現在76名が実践しており、うち20名が1年以内に新たに挑戦を開始したとされています。

さらに、実践者76名を対象としたアンケートでは、複業が自身のウェルビーイング実現につながっていると回答した割合が99%、本業にプラスの効果があると回答した割合が88%とされています。

制度・指標

公表値

社外チャレンジワーク開始

2016年4月

実践者数

76名

1年以内の新規挑戦者

20名

ウェルビーイング実現につながる

99%

本業にプラスの効果がある

88%

この数字を見ると、ビヨンド勤務は単なる流行の週4勤務ではなく、複業や越境活動の延長にある制度だと分かります。

すでに会社の外で活動する社員がいて、その効果を会社側も一定程度確認している。そのうえで、さらに時間を確保する仕組みとして週3・4日勤務制を置いている。

給与が減るからこそ、利用者は限られる

ただし、ビヨンド勤務は誰にでも使いやすい制度ではありません。

勤務日数に応じて給与も下がるため、生活費に余裕がない人にとっては選びにくいです。週4勤務なら給与は4/5、週3勤務なら3/5になるため、住宅費、教育費、家族の生活費が重い人には負担が大きい。

つまり、ビヨンド勤務は「ただ休みたい人」に刺さる制度ではありません。

向いているのは、次のような人です。

  • すでに複業をしている人
  • 資格取得や大学院など明確な学びがある人
  • 地域活動や社会活動に時間を使いたい人
  • 生活費を抑えられている人
  • 収入より経験や成長を優先できる時期にいる人
  • 会社の外で得た知見を本業に戻したい人

逆に言えば、制度の初期利用者はかなり限られる可能性があります。

しかし、それは必ずしも失敗ではありません。こうした制度は、最初から全社員が使うものではなく、まずは明確な目的を持つ人から使われる方が自然です。

日本企業の週4勤務は“理由がある休み”から始まりやすい

ここに、日本の週4勤務の特徴が出ています。

欧米の週4勤務実験では、労働時間を減らしても生産性を維持できるか、ウェルビーイングが上がるか、離職が減るかといった文脈で語られます。

一方、日本企業では、単に「全員の労働時間を減らす」よりも、育児、介護、学び直し、副業、社会活動のような理由をつけた制度の方が入りやすい。

ビヨンド勤務もその一つです。

会社から見ると、給与を維持したまま休みを増やす制度ではない。社員から見ると、自由時間を得る代わりに給与は下がるが、会社の制度として複業や学びに時間を使える。両者の妥協点として成立しています。

本当に見るべきなのは、利用者数より“使った後の評価”

この制度を評価するとき、最初に見たくなるのは利用者数です。

何人が使ったのか。全社員の何%か。週3と週4のどちらが多いのか。

もちろん、それは重要です。ただ、現時点ではビヨンド勤務は始まったばかりで、利用者数や定着率を評価するには早い段階です。

むしろ見るべきなのは、使った人がどう評価されるかです。

  • 制度利用者が昇進・評価で不利にならないか
  • 業務量が本当に3/5・4/5に調整されるか
  • 残りの日に連絡や会議が入らないか
  • 複業や学びの経験が本業で活かされるか
  • 上司が制度利用を前向きに扱えるか
  • 使った人の事例が社内外に出てくるか

制度は、作るだけでは機能しません。

使っても損をしないこと。使った人が会社の中で評価されること。業務量が本当に減ること。この3つがそろって初めて、週4勤務は実質的な選択肢になります。

脱労働の観点では、かなり現実的な一歩である

脱労働の観点から見ると、ビヨンド勤務は完璧な制度ではありません。

給与は下がります。全員が使えるわけではありません。休みを増やすだけの制度でもありません。

それでも、かなり現実的な一歩です。

会社一本の人生から少し外に出る。別の組織、別の活動、別の学びに時間を使う。そこで得た経験を本業に戻す。結果として、会社への依存度を下げながら、会社との関係も切らない。

完全に会社を辞めるより現実的で、ただ週5で耐え続けるより自由度がある。

脱労働は、いきなり働かないことではありません。まずは会社だけに時間と収入と経験を預けすぎないことです。

結論:ビヨンド勤務は、日本型週4勤務のかなり面白い形である

ロート製薬のビヨンド勤務は、給与維持型の週4勤務ではありません。

勤務日数に応じて業務量と給与を3/5または4/5にし、残りの日数を複業、学び直し、社会活動、資格取得などに使う制度です。

この設計は、単に休みを増やす制度ではなく、会社の外で得た経験を本業や社会に還元する越境活動の制度として見るべきです。

すでに同社には社外チャレンジワークという複業制度があり、実践者76名、ウェルビーイング実現につながるという回答99%、本業へのプラス効果88%という公表値もあります。ビヨンド勤務は、その延長線上にある制度です。

日本の週4勤務は、いきなり全員の労働時間を減らす形では広がりにくいかもしれません。けれど、複業、学び、社会活動、資格取得のように“理由のある時間”として制度化されれば、会社にも労働者にも受け入れられやすい。ロート製薬のビヨンド勤務は、その現実的なモデルの一つです。