NISAは広がっている。ただし、みんなが満額投資しているわけではない

NISAの話をしていると、どうしても「年間360万円を埋めるべきか」「最短5年で1,800万円を使い切るべきか」という満額前提の議論になりがちです。

しかし、金融庁が公表しているNISA口座の利用状況を見ると、現実はかなり違います。

NISAはかなり普及している。しかし、満額投資している人が標準というより、口座はあるが少額利用、または買付なしの人もかなり多い制度です。

ここを見誤ると、NISAが資産形成の制度ではなく、精神的な競争の道具になってしまいます。

2025年12月末時点で、NISA口座は約2,821万口座

金融庁の「NISA口座の利用状況調査」によると、2025年12月末時点のNISA口座数は28,206,434口座です。2025年6月末時点の26,958,356口座から、約4.6%増えています。

項目

2025年12月末時点

NISA口座数

約2,821万口座

2025年6月末からの増加率

約4.6%

2014年以降の買付額累計

約71.4兆円

2025年中の年間新規買付額

約18.7兆円

数字だけ見ると、NISAはすでにかなり大きな制度です。口座数は2,800万を超え、買付額の累計は70兆円を超えています。

ただし、この口座数は「投資を深く使っている人数」と同じではありません。口座を作っただけの人、少額だけ買った人、前年は使ったが今年は使っていない人も含まれます。

年代別では40代・50代が厚い

年代別の口座数を見ると、最も多いのは50代、次いで40代、30代です。

年代

NISA口座数

構成比

20代

約337万口座

約11.9%

30代

約495万口座

約17.5%

40代

約538万口座

約19.1%

50代

約553万口座

約19.6%

60代

約418万口座

約14.8%

70代

約308万口座

約10.9%

20代の口座数も約337万口座ありますが、全体の中心は30代から60代です。

これは自然です。投資に回せる余剰資金は、収入、家族構成、住宅費、教育費、退職金、相続、老後意識によって変わります。若いほど時間はありますが、毎月の余裕資金は小さくなりやすい。中高年ほど時間は短くなりますが、投資に回せる資金は厚くなりやすい。

買付額は60代が大きい

2025年中の年間新規買付額を年代別に見ると、50代が約4.15兆円、40代が約3.91兆円、60代が約3.40兆円、30代が約3.29兆円です。

年代

2025年中の年間新規買付額

20代

約1.26兆円

30代

約3.29兆円

40代

約3.91兆円

50代

約4.15兆円

60代

約3.40兆円

70代

約2.06兆円

ここで面白いのは、NISAが若者だけの制度ではないことです。

長期投資という言葉から、20代・30代向けの制度に見えやすいですが、実際には50代・60代の買付額もかなり大きいです。退職前後の資金、預金から投資への移動、相続資金、老後資産の置き場所として使われている面があります。

年間買付0円の口座が多い

一方で、NISAが広がっているからといって、全員が積極的に投資しているわけではありません。

金融庁の投資枠利用状況を見ると、2025年中にNISA口座全体で買付0円だった口座は10,446,488口座あります。分布表の合計28,558,925口座に対して、約36.6%です。

2025年中のNISA口座全体の利用状況

口座数

割合

買付0円

約1,045万口座

約36.6%

0円超〜60万円以下

約1,011万口座

約35.4%

300万円超〜360万円以下

約164万口座

約5.7%

つまり、NISA口座を持っている人の中でも、年間360万円近く使っている人は一部です。

むしろ大きいのは、買付なし、または年間60万円以下の層です。年間60万円以下ということは、月5万円以下です。NISAの現実は、満額勢だけでなく、月数千円から月数万円の利用者でかなり構成されています。

つみたて投資枠も、満額利用は標準ではない

つみたて投資枠だけで見ても、2025年中に買付0円の口座は14,592,033口座あります。100万円超から120万円以下、つまり年間上限に近い口座は2,477,110口座です。

つみたて投資枠は、制度としては年間120万円まで使えます。ただし、実際には満額積立が標準ではありません。

これはかなり重要です。SNSや投資コミュニティでは、毎月10万円、年間120万円を積み立てる人が目立ちます。しかし、金融庁データで見ると、それは多数派ではありません。

NISAは満額で使うと強い制度ですが、満額で使えないから失敗という制度ではありません。

満額前提にすると、NISAはしんどくなる

NISAの非課税保有限度額は投資元本1,800万円です。年間投資枠は360万円あります。

この制度設計を見ると、最短5年で1,800万円を埋めることが一つの最適解のように見えます。たしかに、十分な余剰資金がある人にとっては合理的です。

しかし、多くの人にとって年間360万円はかなり重い金額です。月30万円を投資に回すには、生活費、住宅費、家族、税金、社会保険、教育費を差し引いた後に相当な余裕が必要です。

脱労働のための資産形成で大事なのは、制度の上限に自分を合わせることではありません。自分の生活を壊さず、労働依存を少しずつ下げることです。

月いくらなら、どこまで育つのかを見た方がいい

NISAの使い方を考えるなら、満額かゼロかではなく、月いくらなら続けられるかを見る方が現実的です。

月の投資額

年間投資額

見方

1万円

12万円

まず市場に居続ける練習

3万円

36万円

家計を壊しにくい現実ライン

5万円

60万円

金融庁データ上でも大きな利用層に入る

10万円

120万円

つみたて投資枠を満額使う水準

30万円

360万円

NISA年間枠を満額使う水準

この違いは、頭の中だけで考えるより、実際に試算した方が分かりやすいです。

NISA満額後シミュレーターでは、NISAの投資元本1,800万円にいつ到達するか、その後に追加投資なしで運用だけ続けた場合にどれくらい増えるかを試算できます。満額を急ぐ必要があるのか、ゆっくりでも十分なのかを見る材料になります。

NISAは労働から降りるための道具であって、競争ではない

NISAの数字を見ると、制度の広がりと、利用のばらつきが同時に見えます。

口座数は多い。買付額も大きい。しかし、買付0円の口座も多く、少額利用も多い。満額利用者だけがNISAの標準ではありません。

脱労働の観点では、この見方が大切です。NISAは、他人より早く1,800万円を埋める競争ではありません。将来の自分が、嫌な労働を断れるようにするための制度です。

  • 月1万円でも、労働依存を下げる入口になる
  • 月3万円でも、長期ではまとまった資産になる
  • 月5万円なら、年間60万円以下の大きな利用層に入る
  • 月10万円はかなり強いが、生活を削りすぎるなら本末転倒
  • 月30万円は満額だが、多くの人にとって標準ではない

大事なのは、投資額の大きさではなく、続けられる設計です。

結論:NISAは満額でなくていい。自分の生活を守る額で使う

2025年12月末時点で、NISA口座は約2,821万口座まで広がっています。買付額の累計も約71.4兆円に達しています。

ただし、2025年中に買付0円だった口座は約1,045万口座あります。年間300万円超から360万円以下まで使った口座は約164万口座で、全体の一部です。

つまり、NISAは広く使われている一方で、満額利用が普通というわけではありません。

NISAは、最短で埋める競争ではありません。生活を壊さず、将来の労働依存を下げるために、自分が続けられる金額で使う制度です。満額に届かないことを気にするより、月1万円でも月3万円でも、長く市場に居続ける方が現実的です。