改正後iDeCoは、退職所得控除を使い切れない人に強い
iDeCoの強さは、掛金の所得控除、運用益の非課税、受取時の退職所得控除または公的年金等控除にあります。
特に一時金で受け取る場合、退職所得控除を使える点が大きいです。会社の退職金や企業年金が少ない人は、退職所得控除の枠を十分に使えていない可能性があります。その人にとってiDeCoは、将来の一部の資産を退職金のように受け取れる制度だと考えることができます。
言い換えると、退職金が大きい会社にいる人だけが退職所得控除を使えるのではなく、企業年金や退職金が薄い人にも、老後資産の一部で同じような控除を使わせる仕組みに近いです。
改正後iDeCoが強く刺さるのは、所得控除を十分に受けられ、退職所得控除を使い切っていない人です。
企業年金は給与の一部か
企業年金は、感覚としては給与の一部です。会社が従業員のために拠出している以上、広い意味では人件費であり、今すぐ払われる給与の代わりに老後へ回されているお金とも言えます。
ただし、手取り給与とは違います。今月の生活費や退職前の自由資金として使えるお金ではなく、制度上は老後の給付として受け取るお金です。
この点で、企業年金もiDeCoも似ています。どちらも将来のための資産形成としては強い一方、現在の自由度を上げるお金ではありません。
2026年12月から、iDeCoの上限が引き上げられる予定
厚生労働省は、2025年の制度改正として、iDeCo・企業型DC・国民年金基金の拠出限度額引き上げを2026年12月1日施行予定と案内しています。
会社員など第2号被保険者では、企業年金等と合わせた共通枠が月6.2万円になる予定です。企業年金がない会社員であれば、改正後の上限として月6.2万円をiDeCoに拠出できる前提で考えられます。
一方、企業年金がある場合は、iDeCo単独で月6.2万円を使えるわけではありません。企業年金等の掛金を差し引いた残りがiDeCoの上限になります。
月6.2万円を30年積み立てるとどうなるか
ここでは、会社員・企業年金なし、改正後上限の月6.2万円を30年間、年利5%で積み立てる前提で、iDeCoと課税口座を比べます。
前提は次の通りです。
- 毎月積立:6.2万円
- 積立期間:30年
- 想定利回り:年5%
- 課税口座の運用益課税:20.315%
- iDeCoは全額一時金で受取
- ほかの退職金はない
- 所得税+住民税の限界税率:30%
この条件では、積立元本は2,232万円、30年後の運用額は約5,160万円です。
比較項目 | iDeCo | 課税口座 | iDeCoとの差 |
|---|---|---|---|
積立元本 | 2,232万円 | 2,232万円 | 0円 |
30年後の運用額 | 約5,160万円 | 約5,160万円 | 0円 |
運用益への課税 | 0円 | 約595万円 | +595万円 |
受取・売却前後 | 約5,160万円 | 約4,565万円 | +595万円 |
iDeCo受取時の税金 | 約645万円 | - | -645万円 |
最終手取り | 約4,515万円 | 約4,565万円 | -50万円 |
30年間の所得控除効果 | 約670万円 | 0円 | +670万円 |
節税分を現金保有した場合の合計 | 約5,185万円 | 約4,565万円 | +620万円 |
節税分も年5%で運用した場合の合計 | 約5,885万円 | 約4,565万円 | +1,320万円 |
この表で重要なのは、iDeCo口座の中だけを見ると分かりにくいことです。iDeCoは運用益非課税で有利ですが、一時金で受け取るときに課税されます。
一方、iDeCoには掛金の所得控除があります。所得税と住民税を合わせた限界税率が30%なら、月6.2万円の拠出で年間約22.3万円、30年間で約670万円の税負担軽減になります。
その節税分を使ってしまっても、課税口座より約620万円有利です。節税分も年5%で運用できれば、差は約1,320万円まで広がります。
口座内の比較だけではiDeCoの強さは見えにくい
iDeCoは、課税口座と同じように運用して、最後に税金を払うだけの制度ではありません。
本質は、現在の所得から掛金を控除し、その分の税負担を下げながら、将来の受取時には退職所得控除や公的年金等控除を使えることです。
そのため、iDeCoの有利不利は次の条件で大きく変わります。
- 現在の所得税率・住民税率
- 会社の退職金の有無
- 企業年金の有無
- 退職所得控除をどれだけ使えるか
- 一時金で受け取るか、年金で受け取るか
- 節税分を使うか、運用するか
退職金が少なく、所得控除の効果が大きく、節税分を使わず運用できる人ほど、iDeCoは強くなります。
一番刺さる層
改正後iDeCoが一番刺さるのは、次のような人です。
- 企業年金がない、または薄い会社員
- 退職金が少ない会社員
- 所得税と住民税の負担がそれなりにある人
- NISAをある程度使っていて、さらに老後資金を積みたい人
- 60歳まで使わない資金を明確に分けられる人
- 節税分を生活費に溶かさず、貯金や投資に回せる人
特に、企業年金なしの会社員が月6.2万円まで使えるようになるなら、老後資金づくりとしてはかなり大きな枠です。
ただし、企業年金がある人は、会社がすでに老後資金を積み立ててくれているとも言えます。その分、iDeCoの追加枠は小さくなります。
デメリットは、60歳まで人生に効きにくいこと
iDeCoの最大の弱点は、原則60歳まで引き出せないことです。
これは制度の目的を考えれば当然です。iDeCoは老後資産形成のための制度であり、税制優遇もその代わりに与えられています。
しかし、脱労働や働き方の変更を考える人にとっては、この制約が重いです。退職、休職、転職、週4勤務、独立、引っ越し、生活防衛資金には使えません。
NISAなら、売却すれば途中で使えます。課税口座も自由に売却できます。iDeCoは数字上の資産が増えても、60歳まで今の生活を直接楽にするお金にはなりません。
NISAと比べると、自由さではかなり劣る
NISAは、年間投資枠が大きく、売却の自由度もあります。運用益が非課税で、必要になれば現金化できます。
iDeCoは、掛金所得控除というNISAにはない強いメリットがあります。一方で、60歳まで使えないという制約があります。
そのため、単純にどちらが得かではなく、目的が違います。
制度 | 強い点 | 弱い点 | 向いている目的 |
|---|---|---|---|
NISA | 運用益非課税、途中売却できる、枠が大きい | 所得控除はない | 中長期の自由資金づくり |
iDeCo | 掛金所得控除、運用益非課税、受取時控除 | 原則60歳まで引き出せない | 老後資金づくり |
課税口座 | 自由に使える、制度制約が少ない | 運用益に課税される | 目的を決めない資産形成 |
人生を楽しくする自由資金としては、NISAや課税口座の方が使いやすいです。iDeCoは、老後を確実に豊かにする制度としては強い一方、40代や50代の自由には効きにくいです。
退職金が大きい人は、出口で不利になることがある
退職金が大きい人は、iDeCoの受取時に注意が必要です。
退職所得控除は、会社の退職金、企業年金の一時金、iDeCoの一時金などで関係してきます。すでに退職金で控除を大きく使う人は、iDeCoを一時金で受け取ると課税が重くなる可能性があります。
逆に、退職金が少ない人は、iDeCoで退職所得控除を使える余地が大きくなります。
つまり、iDeCoは退職金が少ない人に退職所得控除の恩恵を広げる制度としてはかなり強いですが、退職金が大きい人には出口設計が重要になります。
結論:iDeCoは老後の自由を買う制度であって、今の自由を買う制度ではない
改正後iDeCoは、企業年金なし、退職金少なめ、所得控除を十分受けられる会社員にはかなり強い制度です。
月6.2万円を30年積み立てられるなら、所得控除と運用益非課税の効果は大きく、節税分まで運用すれば課税口座との差はかなり開きます。
ただし、その資産は60歳まで自由に使えません。数字上は増えても、退職前の生活を楽にしたり、若い時間を買い戻したりするお金にはなりにくいです。
iDeCoは、退職所得控除を使い切れていない人に老後の税制優遇を届ける強い制度です。一方で、脱労働や現在の自由を重視するなら、NISAや現金、課税口座とのバランスを見た方がよいです。