今派と未来派は、きれいに分かれるわけではない
人間は、今を大切にする人と、未来を大切にする人に分かれるのでしょうか。
感覚的には、今を優先する人もいれば、未来を優先する人もいます。旅行、趣味、人間関係、自由時間を重視する人もいれば、貯蓄、投資、キャリア、老後資金を重視する人もいます。
ただし、実際には、今派と未来派がはっきり半分ずつに分かれるわけではありません。多くの人は中間にいて、状況によって揺れます。
人は今派か未来派かに分かれるのではなく、今と未来の間で揺れ続けている。
割合として見るなら、中間がかなり多い
厳密に「今派が何%」「未来派が何%」と分ける公的統計は見つけにくいです。心理学では、現在志向、未来志向、時間選好、遅延割引、将来結果の考慮といった連続的な尺度で見ることが多いからです。
それでも記事として分かりやすく置くなら、次のようなイメージになります。
タイプ | 割合イメージ | 特徴 |
|---|---|---|
今を優先する人 | 25〜35% | 経験、楽しさ、自由時間、現在の感情を重視する |
未来を優先する人 | 25〜35% | 貯蓄、投資、キャリア、老後、安定を重視する |
状況で揺れる人 | 30〜50% | 普段は未来に備えるが、疲れると今を優先する |
より自然なのは、5段階くらいの連続分布で見ることです。
タイプ | 割合イメージ |
|---|---|
強い今派 | 約2割 |
やや今派 | 約2割 |
中間 | 約2割 |
やや未来派 | 約2割 |
強い未来派 | 約2割 |
もちろん、これは厳密な統計ではありません。重要なのは、どちらかに固定されるのではなく、人は年齢、収入、健康、家族、仕事の負荷によって時間の重みづけを変えるということです。
心理学では「将来結果をどれくらい考えるか」を見る
心理学には、Consideration of Future Consequences という考え方があります。これは、現在の行動が将来に与える結果をどれくらい考えるかを測るものです。
この傾向が強い人は、今の行動が将来にどう影響するかを考えやすいです。貯蓄、健康管理、環境行動、長期計画のようなものと関係しやすいとされています。
一方で、現在の欲求や関心を重視する人もいます。今の楽しさ、今の疲れ、今の人間関係、今の経験を重く見るタイプです。
どちらが正しいという話ではありません。将来を考えないと生活は不安定になりますが、将来だけを考えすぎると、今しか使えない時間を失います。
人間には現在バイアスもある
行動経済学では、present bias、つまり現在バイアスという考え方があります。
これは、将来の大きな利益よりも、目の前の小さな利益を高く評価しやすい傾向です。たとえば、将来の健康より今日の楽な選択を選ぶ、将来の資産より今の消費を選ぶ、といった行動です。
この意味では、人間は放っておくと現在に引っ張られる面があります。
しかし、現代の会社員生活を見ると、逆方向の力もかなり強いです。社会制度やキャリア設計は、むしろ未来優先を正解に見せやすいからです。
社会制度は、未来優先に寄せてくる
日本の会社員は、制度的には未来優先へ寄りやすいです。
たとえば、次のようなものがあります。
- 正社員として長く働く
- 昇進や年収増を目指す
- 住宅ローンを組む
- NISAで長期投資する
- iDeCoで老後資金を作る
- 退職金を待つ
- 年金受給まで働く
これらはすべて、今の時間やお金を将来へ送る仕組みです。
もちろん、悪い制度ではありません。将来への備えは必要です。問題は、それらを当然のように積み重ねると、今の時間をどこまで差し出しているのかが見えにくくなることです。
未来優先は、数字で評価されやすい
未来を大切にする行動は、数字で見えます。
- 資産残高
- 年収
- 積立額
- 退職金
- 老後資金
- 住宅ローン残高
- 昇進や役職
一方で、今を大切にした結果は見えにくいです。
- 疲れずに過ごせた休日
- 人と会った時間
- 旅行で得た経験
- 健康なうちに動けたこと
- 家族や友人との記憶
- 仕事以外に使った集中力
資産残高はグラフにできます。しかし、若い時間をどれだけ労働に差し出したかは、口座には表示されません。
今を優先しすぎるリスク
もちろん、今を優先しすぎることにもリスクがあります。
収入をすべて使い切り、貯蓄も投資もなく、健康管理もしないまま年齢を重ねると、将来の選択肢は狭くなります。
今だけを見すぎると、次の問題が起きます。
- 生活防衛資金がない
- 退職や転職の余裕がない
- 病気や失業に弱い
- 老後資金が不足する
- 将来の自分に負担を送る
今を大切にすることは、浪費することではありません。今しかできない経験や休息を選ぶことであって、将来の自分を無視することではありません。
未来を優先しすぎるリスク
逆に、未来を優先しすぎるリスクもあります。
資産形成、キャリア、老後資金を最大化することだけを正解にすると、若い時間、健康、人間関係、好奇心を後回しにしすぎる可能性があります。
未来優先に偏りすぎると、次の問題が起きます。
- 若い時期の経験を失う
- 休むことに罪悪感を持つ
- 資産は増えても使えなくなる
- 仕事以外の関係が薄くなる
- 60代以降に自由になっても体力が残っていない
将来のために働くことは合理的です。ただし、将来のためだけに現在を使い切ると、人生全体では損をする可能性があります。
脱労働で問うべきこと
脱労働の文脈では、「今派か未来派か」よりも、次の問いの方が重要です。
- 今の時間をどこまで労働に差し出すのか
- 老後の安心のために、どれくらい現在を削るのか
- 資産形成の目的は、老後最大化なのか、労働交渉力なのか
- 若く健康な時間に使ってよいお金はいくらか
- 将来に備えながら、今の自由も残せているか
未来への備えを否定する必要はありません。ただし、社会に従っているだけだと、未来優先が正解に見えすぎます。
NISA、iDeCo、退職金、年金、昇進。どれも重要ですが、それらは今の時間と交換されています。
結論:多くの人は中間にいるが、社会は未来派に寄せる
人間は、今を大切にする人と未来を大切にする人に、きれいに分かれるわけではありません。多くの人は、今と未来の間で揺れています。
しかし、社会制度は未来優先を正解に見せやすいです。長く働き、積み立て、老後に備えることは称賛されやすい。一方で、若い時間を休息や経験に使うことは、浪費や甘えに見られやすい。
だからこそ、意識して現在の価値を見直す必要があります。
今だけを生きるのは危うい。しかし、未来だけのために生きるのも危うい。大切なのは、戻らない現在と、まだ来ていない未来のどちらにも、時間とお金を配分することです。